イベントは盛況だった。平日の昼間にふらふら出歩ける主婦の多いことに驚きである。
撤収を終えて、軽く食事することに。会場近くよりも飲食店が多い最寄りのJR駅まで移動。
歩道を並んで歩いていると、何度か右肘が
Kさんに触れる。そのたびにエロスの電流が
身体の中を駆け抜ける。右腕から全身へと甘い痺れが広がり、意識が朦朧となりそうだ。
恋心を抱きながら、それを悟られることなく、差しつ差されつ呑む酒はとってもエロスだ。
何度か行ったことがある居酒屋に入店。ビールで乾杯して肴を数皿オーダーして一心地。
二人だけで飲むのは今回が初めて。だからじっくりと話をすることができた。Kさんの旦那
は今年定年を迎えて、毎日家に居るらしい。最近引き籠もりっぽくなってることを心配して
いた。唯一の趣味は競馬だが、馬券はKさんに頼んで買いに行ってもらってるとのこと。
たまに外食を提案しても、金がないからと行きたがらないようだ。ニートに一直線だな。
どういう巡り合わせや馴れ初めで一緒になったのかは知らないが、それを聞くのは野暮だ
よな。旦那はかなり変わった人のようで、45歳まで瀬戸物屋に住み込みで働いてたらしい。
徐々に会社が傾いていくなか、最後に一人になるまで30年も働いていたとか。退職金が
出なくて現物で支給されたらしい。作家モノの茶碗とか香炉とか。ヤフオクで売り払って
金にすればいいのに。因みに旦那はネットは全然やらないようだ。
旦那は独身生活が長かったが、料理は全然しないんだと。掃除洗濯アイロンがけ針仕事は
やるようだが、料理だけは手を出さない。独身のときは、晩酌を兼ねて飲み屋で済ませたり、
コンビニ惣菜を肴に家飲みで済ませていたようだ。普通は味付けに飽きて、食べたいものを
自分で作りたくなるものだと思うけど。
以前に別れかけたことがあると言うKさん。
夫婦間のことは他人には分からないものだが、
喧嘩したときに、「オマエみたいなエキセントリックな女に付き合ってきた10年を返せ」と
言われたという。「オレも同じようなことを言われたよ、時間を返せって。でもそれ言っちゃ
いけないよね。お互い様じゃん。そんなに嫌だったんなら、なんでもっと早く別れなかったん
だってコトだよね。」とコメント。Kさんも同意。彼女はブチ切れて家出して京都に1年ぐらい
住んでいたらしい。そんな事情があったとはびっくりした。
故郷と違って歴史のある街「京都」の生活はとても楽しかったようで、旦那とはそのまま
フェードアウトしようと思ってたらしい。ところが勤めていた会社が傾いてしまい、全然次の
仕事が見つからなくて、東京に戻らざるを得なくなったとのこと。1年の別居で何か変わった
のだろうか。家出した時点で、相手に対する気持ちは完全に離れたはず。そんな相手と
再び生活を共にするのは有り得ないよ。たとえそれが家庭内別居状態だとしても。Kさんの
心の中、いまどうなってるのかな。
Kさん、そのうちに故郷へ戻らなければならないらしい。親御さんが病気を患っていて、
そのうちに介護が必要になるからだ。でも彼女的にはあまり戻りたくなさそうな感じだ。
今から帰っても向こうに友人関係はないし、食い扶持を稼ぐ仕事もないし。旦那にこの
話は何度かしてるらしいが、しっかり話し合ったことはないようだ。でも今の状態から、
二人で故郷へ移住するのは難しいと思う。引き籠もりになりつつある定年男、仕事すりゃ
いいのに、警備員や清掃員の仕事しかない。本人はそこまで割り切れていないらしく、
毎日ぶらぶらしているらしい。そんなんで見知らぬ土地へ引っ越して生活できるわけが
ない。どうするんだろう。
イベント会場で、Kさんから「落語のチケットを2枚貰ったので行く?」と誘わ
れた。
「旦那と行けばいいじゃん?」と返答したら、「どうせ行かないから」と少し吐き捨てる
ような感じで言う彼女。「じゃあ有り難くいただきます」と1枚いただいた。また二人で
時間を過ごせる。とても嬉しい。いま思い返してみると、旦那との関係は冷え切ってる
のだろうか。先日のメールの返事には、「スケジュールが合ったら、xxxのxxへ
行きましょう」って書いてあったのは、社交辞令じゃなくて本気なのかな。もしも一緒に
行けたら、二人分のお弁当作って持って行こう。おにぎり、玉子焼き、唐揚げの最強
コンボで。そんなことしたら勘ぐられちゃうかな。でも彼女の喜ぶ顔が見たい。もっと
彼女のこと知りたいし、一緒にいたい。
募る気持ちは 心に秘めて キミと二人で 月見酒